狸の童(わらし) 二幕三景
語り部 むかしむかし ある山奥の小さな村に 仲のいいじっさまと
ばっさまが住んでおりました。・・・寒い冬がそこまできています
◎効果・・拍子木の音
◎舞台の幕があく スポットライトに照らされたじっさまとばっさま
じっさまは土間で縄をなっている ばっさまはいろりで煮物をしている
いろりは あかあかと燃えてあったかそう
◎わらぶき家の外は木枯らしがぴいぷう吹いていて すっかり冬
がそこまで来ている感じがする
じっさま (謡うような調子で)さあむい さあむい お外はさむい
はあやく 縄なってしまおかの トントントン さあむい
さあむい お外はさむい はあやく わらじこさえてしまおかの
ばっさま (同じ様に謡うような調子で)じっさま じっさま もうじっき
おなべがぐつぐつ煮えますよ はあやく はやく 縄なってしま
やんせ はあやく はやく わらじこさえてしまやんせ
じっさま (大きく背伸びをして)ああーあ ばっさま 今日はこのへんで
おしまいじゃ 腹がへって力がはいらん
ばっさま フォホッホ じっさま そんじゃあ 夕飯にしましょかの
今夜はじっさまの大好きな 芋じるじゃでなあ
さあさあ そこをかたずけてしまやんせ
じっさま おうおう そうするかの (そう言ってもう一度背伸びをして
あたりをかたずけはじめる)
◎外に誰ぞかがきて 戸をたたく
トントントン
◎舞台全体が明るくなる 戸の外に一人の童(わらし)がいて
しきりに 戸をたたいている
じっさま おうや ばっさま 誰やら来たみたいじゃぞい
ばっさま じっさま ちょこっとみてくんさいな
じっさま (戸口まで行って)もおし こんなよふけに誰じゃいな 名前が
あるなら 言ってみれ
わらし タヌキじゃなかった おら ポン太じゃ 道わからんようになっ
たで 一晩泊めてつかあさい
じっさま 道がわからんちゅうて こんな夜中にわらしが一人 どこ行く
つもりじゃった? さては なんぞバケてるんじゃなかろうの
ばっさま じっさま いいじゃ いいじゃ タヌキだろうとキツネだろと
こんな夜中外は風も吹いて寒い 一晩くらい泊めてやりんしゃい
じっさま ばっささまがそう言うなら泊めてやろかの さあさあ はいらっせ
◎じっさまは戸をあけてやる・・ピユウウウ(風の音)
わらし じっさま ばっさま ありがとう(寒くてガタガタふるえてる)
ばっさま さあさ こっちきて いろりにあたれ 外はさむかったろうに
◎じっさまは戸を締めて 土間のあとかたずけをしている
◎わらしはいろりのそばにくる 手を火にかざして
わらし あったけえ あったけえ
ばっさま そうじゃろ そうじゃろ あったけえじゃろ まってろよ いま
芋じるをやるからな (土間のじっさまにむかって)
じっさま じっさま はやくかたずけてしまやんせ
わらしが はらすかしてまってるでの
じっさま (かたずけながら)もうじっきじゃ もうじっき
(かたずけが終わって) さてさて 終わったぞい まってろよ
◎そう言ってじっさまは いろりのそばにくる
◎わらしをはさんでじっさまとばっさま 鍋から芋じるを取り
ばっさま さあさ 食べれ食べれ たあんと 食べれ(わらしにわたす)
◎わらしは受け取って さっそく食べようとするが 熱いので
すぐには 食べられない
じっさま あわてない あわてない ほれほれ こうして 息をふっかけて
(お椀に息をふっかけるしぐさ)
◎わらしは ふうふういいながら 食べる
ばっさま たあんとあるで ゆっくり食べれ
◎三人は芋じるをたべる しばらくして
わらし 食った食った たあんと食った おなかがポンポンポンでもう
食えん (そう言ってお腹をたたくと かすかに鼓の音がする)
じっさま もうええか ええか たあんと食べたか
わらし うん たあんと 食った ・・・・・ なんやらお腹が一杯で
ねむうなってきた
ばっさま ほうかほうか ねむうなったか そんなら このいろりのそばで
寝え あったかいでのお
◎わらしは いろりのそばで 寝てしまう
ばっさま (やや小さな声で)じっさま じっさま みてみんしゃい
じっさま (同じように小さな声で)どうした ばっさま
ばっさま ほれほれ このとおり (わらしのおしりを指さす)
じっさま (少し驚いた様子で)な・ななあんと しっぽがでてきた
ばっさま 腹いっぱいで 寝てしもうて・・・・・ バケとるのを
わすれたみたいじゃの ふぉほほほほ
じっさま かわいいのう・・・かわいいのう このまま朝までねかしょうや
ばっさま うんじゃ うんじゃ わてらもそろそろ ねましょかの
◎そう言って二人はいろりのそばで ねてしまう
◎舞台は次第に暗くなる いろりのみがあかあかと燃えている
◎少 間 わらしの寝ている所のみスポットが入る
わらし (寝たままで) じっさま ばっさま かんにんな おら・・・
おら だますつもりじゃなっかたけども ついつい・・・・・
かんにんな じっさま ばっさま
あしたはやく出ていくでな
◎スポットきえる 舞台は いろりのあかりのみ
◎効果・・すずめの鳴き声とともに 次第に明るくなる
◎いろりの側にじっさまとばっさまがおきている わらしはまだ
寝ている ガバっと起き上がり あたりをみまわす
わらし (じっさまとばっさまを見て)じっさま ばっさま ゆんべは
ありがと おら もう出てゆくだ
じっさま 出てゆくちゅうて どこ行くだ? いくとこさ ないじゃろ
わらし ・・・けんど(わらしの言葉をさえぎって)
じっさま お前さえよければ ずううとここにおってもええぞ(ばっさま
にむかって)なあ ばっさま
ばっさま ふんとふんと いつまでもおるがええ
わらし けど・・けど・・おいら・・・・
じっさま なんじゃ なんかぐええがわるいかの
わらし けど・・けど・・(意を決して)おら ほんとは 人間じゃねえ
タヌキなんじゃ・・おら じっさまとばっさまをだまくらかして
・・・そんで(さえぎって)
じっさま そんだらこと とうにわかっておったわい なあ ばっさま
わらし けど・・けんど・・・おら おいら・・・
じっさま お前がタヌキじゃろうとちっともかまわん ゆうべのお前の寝顔
は かわええて かわええて このままずっと おってくれたら
ええと思うとった どうじゃ?どうじゃ どうじゃ・・・・
ばっさま ポン太 ポン太 ばっさまへこい
じっさま おお ポン太 ポン太 じっさまへもこい
ポン太 おら ・・おら ・・・・ うん! ばっさま じっさま
(じっさまとばっさまのところを行ったり来たりする)
じっさま ポン太 さあさ 山行ってこ 寒い冬がすぐ来るで
柴かって 薪とってこ
ポン太 うん! 柴かってこ 薪とってこ
ばっさま おにぎり こさえたで それもって じっさまといってこい
ポン太 うん! おにぎりもっていってこ
◎じっさまと ポン太は戸を開けて 山に向かう
◎ばっさまは 戸口まで出てきて 送り出す
ばっさま 気つけてなあ ポン太 じっさま
ポン太 うん! 気つけていってくる(と言ってかけだす)
じっさま これこれ あわてるな ポン太 ゆっくりゆっくりな
◎じっさまとポン太は ばっさまに手をふりながら 山に行く
語り部 こうして 狸の童のポン太は じっさまと 山へ 薪を取りに
出かけました。
◎効果・・・拍子木の音
◎幕がしまる
◎ <第一幕>おわり