はじめに
美濃加茂の小山(こやま)に小山寺(しょうさんじ)という寺があります。
飛騨川が木曾川と交わるほんの少し手前、川の中ほどに島があります。
ここに小山観音として知られる堂宇が建っています。
昔は陸続きだったそうですが、今はダムのために渡り橋がついています。
いまから約800年以上前のことです。
木曾義仲の母の若名御前が京に上る時、この辺りで病没したとのことです。
そのことを悼んで義仲が、この地に堂を建てたとの言い伝えがあります。
今回はこのことを基に製作しましたが、史実とはなんら関係がありません。
むかしむかし そう、今からかれこれ600年位前のことです。
鎌倉幕府が滅亡してその後、足利尊氏が室町幕府を開きました。
1467年(応仁元年)権力争いから応仁の乱が始まりました。
いずれにしても、このお話とはあまり関係がありませんが・・・・
ここは 美濃の国、上古井村の牛ケ鼻(現天狗山)の下に飛騨川は流れています。
この川は米田郷の下・小山で木曽川と合流します。
その為にこの辺りは度重なる水害で人々は苦労していました。
この川の中ほどに 小さな島があり、そこにはお堂が建っています。
このお堂はこのお話よりさらに200年ほど前に、木曾義仲が母の
霊を慰めるために建立したといわれています。
このお話は、このお堂にまつわるお話です。
「お留とめ、だいじょうぶか?お福ふくお前もええか?」
「ああ わしはだいじょうぶだ。それより おっとお
お前様はええかね?お福だいじょうぶか?」
「櫓を放すでねんぞ!」
「わかってるだ、それよりおっとお 舵をしっかりたのむぞい!」
お留と捨吉は荒れ狂う飛騨川を舟で太田の郷に向かっていました。
舟の中には 生み月を迎えたお福が、青い顔をして座り込んでいます。
あいにくと 川辺の郷の産婆がすべて出払っていて
やむおえず舟で太田の郷へ向かうことになったのです。
この小山の近くまで来た時です。晴れていた空が一転にわかに暗くなり、
雨風が吹き荒れてきたのです。
この先は木曽川との合流地点です。
川はより一層荒れ狂うことは間違いありません。
「困ったのう。あと一息じゃというのに。」
捨吉は舵を取りながら言いました。
牛ケ鼻の下ぐらいに来た時です。
目の前に 小さな島をみつけました。
「おお、あそこに一先ず 舟を着けよう。」
捨吉は舵を小島の方向に向けました。
やっとのことで小島にたどりついた 捨吉は
まずはじめにお福を舟から降ろしました。
そうして お留と二人して 舟を留めていた時です。
ふとしたはずみで、櫓を流してしまいました。
「あ〜〜っ」
捨吉は慌てました。櫓がなくては舟はこぎだせません
「わしが取ってくる!。」
とっさに、お留は自分の体に縄を巻き、
「おっとう しっかり持っててな!。」
と言って 荒れ狂う川に飛び込みました。
「おい! お留 むちゃすんな!。」
捨吉はお留を止めようとしましたが、その時は
すでに お留は川の中です。
捨吉はしっかりと縄の先を持っていました。
どの位たったでしょうか
捨吉が伸ばしていた縄は後がなくなりました。
「もう待てねえ。」
捨吉は縄をどんどん手繰たぐり寄せました。
・・・・・・!
なんと 縄の先には お留ではなく 櫓がしばってありました。
「お留〜〜〜〜っ!。」
捨吉は声の限り叫びましたが、お留の姿はどこにもありません。
「・・・お留・・・お留・・・」
捨吉はうつろな眼でつぶやいていました
「おっとお、おっかあ、いたい!おなかがいたい!。」
気が付くと お福がお堂の所でくるしんでいます。
捨吉は途方とほうにくれてしまいました。
「あ〜あ こんなときに婿の吉松は何処どこ行った!?」
「いったいよ〜〜!。」
お福はますます苦しみだしました。
祠のなかには観音様が祭られていました。
「観音様、どうか お福を助けてください。お願いします。」
捨吉は必死で観音様に手を合わせました。
「おら 何も出来ねえ。おら 観音様におすがりするしかできねえ。」
「お福を助けてくださるなら、おらどんなことでもいたします。」
その時です、どこからか 声がしました。
{あい わかったぞ}
おぎゃ〜〜〜
どのくらいたってたのでしょう。
捨吉は、赤ん坊の泣き声でわれにかえりました。
お福をとみると・・・・
男の赤ん坊を抱いていました。
「お福!だいじょうぶか?」
「おっとう だいじょうぶだ。一時くるしかったけど
すぐらくになったでな。」
「そうかそうか よかったよかった。」
「おっとう おっかあは?」
捨吉は今までのことをお福に話しました。
「うそじゃ!おらが苦しんでるとき、ず〜と手をにぎって
だいじょうぶだ・もうすこしだって話してくれたのに・・・」
捨吉は ハッとしました。
「観音様じゃ!観音様がお福を助けて下されたんじゃ」
「ありがたや ありがたや」
捨吉は何度も何度も 観音様にお礼を言いました。
その時です またもどこからか 声がしました。
{やくそくじゃぞ・・・}
・・・・あれから 一年
お福と吉松それに留丸と名付けられた男の子が
小山の観音様の前に立っていました。
捨吉はあれ以来すっかり元気がなくなり、家でぼんやりしています。
「観音様 あの時は本当に有難うございました。」
「お陰様で ほれ こんなに元気な男の子になりました。」
「あの時、おっかあの代わりをしていただきました。
でも・・・おっかあは・・・・。」
「ばぶばぶばぶ。」
留丸が指差したほうを何気なく見たお福は
「!・・・」
「おっかあ・・?」
「なに!おっかさま?」
吉松も留丸が指差したほうを見ました。
「おっかさま!。」
そこには 忘れもしない お留の姿がありました。
でも お留はこの三人のことなど気にもとめず、お堂のまわりの
掃除をしています。
どうやら お留は記憶をなくしたみたいです。
何度話しても知らない知らないと言うばかりです。
吉松は急いで捨吉を呼びに行きました。
「なに! お留が生きてる!?」
捨吉は駆けつけました。が、
やっぱり お留は知らないというばかりです。
「お留 おらじゃ 捨吉じゃ。」
・・・・・どうも 思い出す気配はありません。
その時 どこからか 声がしました。
{捨吉 わたしとの 約束じゃ このお留は わたしの世話人
としていただいたぞよ}
捨吉は思い出しました。あの時 観音様にお願いしたことを・・
「お福、吉松、おらは ここに 残る。」
「おらは あの時観音様と約束をしたんじゃ。こうやって
お留が生きていた今、おらも このお堂の世話人として、
お留と一緒にここに居る。」
これ以来 この小山の観音様でお堂のお世話をする 年老いた夫婦が
暮らしたとのことです。
ふたりは いつまでも いつまでも 仲むつまじくお世話をしたとの
とのことです。
でも、お留の記憶が戻ったかどうかは、わかりません…・
おわり
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